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家庭医・プライマリケア医のためのアメリカ・米国臨床留学への道
それは一つのとても大きな挑戦です

2004322日〜26日までの5日間、SIU Center for Family Medicineで実習をさせていただきました。私は現在、6年生の途中から大学を休学してIllinoisChampaign/UrbanaにあるUniversity of Illinois at Urbana-Champaignに交換留学生として勉強させていただいています。留学先は医学部ではなく7ヶ月間自分が医学生であることを忘れてしまいそうな生活をしてきたため、実習を受け入れてくださった伊藤先生はじめCenterの先生方、また何よりも患者さんに失礼のないよう、また、貴重な機会を自分のために十分活かせるよう、交換留学先での授業の合間に少しずつではありますが英語の教科書を読んで実習に備えました。それでも、いたらないところがとても多いままに実習に挑んでしまった私のレポートですが、読んでいただけたら幸いです。

<実習の前に>

 患者さんのcontinuing careに関わりたい、患者さんのお家のこと、仕事のことなどなども考えながら「病気と一緒に少しでもいい人生を生きるお手伝い」がしたいという気持ちからFamily Practiceに興味を持ったが、伊藤先生のところで実習をしにくる他の学生さんとは恐らく少し違って、「家庭医になりたい!だから絶対にアメリカの家庭医療の現場を見てみたい!」という強い思いを持っていたわけではなかった(こんな自分を受け入れてくださった伊藤先生にどんなに感謝しても足りません!)。日本でいくつかお邪魔させていただいた診療所などでみる患者さんのほとんどが高齢者であったことから、もともと小児科に興味があった自分としては進路を決めかねているというのが実際のところだった(お年寄りとお話をするのは大好きなのだが、やっぱり子どもを診ることをあきらめられない、)。そんな自分なので、お産まで含めて広い年齢層を見るアメリカの家庭医というのがどういうものなのか、この5日間で少しでも知ることができればと願っている。

1日目>

午前も午後も、Family Practice Clinicで伊藤先生につかせていただいた。最初に今日診せていただいた患者さんについてまとめておくと、sinusitisannual PAP smearの人が2人、prenatal visithealth maintenance4 month old baby and her mom seeking birth control shotback painknee injury2人、hand warts7歳の女の子、face rashの女性という感じだった。
こちらにきてから取った授業でアメリカの医療保険制度について勉強していたので、“health maintenance”という概念自体は理解していたが、実際に臨床の現場でそれをみることはもちろん初めてだったのでとても興味深かった。(以下の日記の内容で、私の間違った理解が含まれている部分があったら申し訳ありません!)一言で言えば、private insurance(と言っても日本の個人医療保険とは少し違う)の種類の一つであるHMO(Health Maintenance Organization)では、Specialistに診てもらうためにPrimary Care Providerの許可が必要などの制限がある代わりに、病気が重大な問題になる前に介入して結果的に医療費を抑えようという狙いから定期的な健診が保険でカバーされる。こちらにきてからアメリカの保険について何人かの人と話したところ「自分のことを全部知ってくれているFamily Doctorがいてくれることは安心」という一方で「専門家に診て欲しいときに診てもらえないのは困るときがある(特に、深刻な病気になったときのことが心配)」という人が何人もいて、保険会社が治療内容に関して大きな力を握っているという意味でアメリカの保険制度にはかなり問題があると思ってきた。けれども、今回先生方の診療を診て、患者さんに適切なpreventive careを提供していこうとするhealth maintenanceを重要視しているということ自体は基本的にいいことなのではないかと思った。あるpreventive careの有効性が明らかにされているのならば、disabilitymortalityにつながるような大きな問題になる前に患者さんにその選択枝を提供していくことはとても重要だと思う。health maintenanceなどのいい面を取り入れることで日本は本当の意味で「国民皆保険」によって達成されているaccessibility equityを誇れるのではないかな、と思う。
話を自分のことに戻すと、先生が忙しくて他の患者さんを診ていらっしゃる間に何人かの患者さんからお話を聞かせていただいたが、実習をすることが決まってから何人かの友だちを捕まえてH&Pの練習(?)をさせてもらってきたにも関わらず、どうしてそんな当たり前のことを聞かなかったんだろうというような当たり前のことを聞き忘れていたり、プレゼンテーションしようとしてみてもはちゃめちゃになってしまったりと全然できない自分に気づき、自分の実力を考えたら当たり前の結果なのかもしれないけれど実はちょっと落ち込んだ。それから、もうひとつ感じたのは自分が今までクリニカルクラークシップで見てこなかった科や分野については恐ろしいくらい何もわかっていないし何もできないな、ということだ。整形外科の診察、Birth Controlなどについては実は私は実際にやっているところを見たことすらなかった。恐ろしいのは、これらを見たことがないのは私がとんでもなく怠け者の学生だからと言うわけではなく、大学のカリキュラムのベルトコンベヤに乗っている限り、多くの学生は(少なくとも私の大学の学生は)これらを見ないまま医者になると言うことだ。今の日本の教育の下にいる限りは、自分で意識して外に出てそういった弱い部分を診る機会を作るようにしないといけないんだなと思った。

2日目>

 午前中は、伊藤先生についてprocedure clinicの見学。あまり忙しくなく(先生はペーパーワークなどもあってもちろんお忙しそうだったが)、colposcopy2件見学した。
 午後は、Dr. RastogiについてFamily Practice Clinic prenatal visitsciaticaannual PAP smearfluid in an ear(この患者さんは、左の耳に水が入っているような感じがする、全身がかゆい、、、などなどを次から次に訴えていらっしゃったが、所見をとると実際にはむしろ右にわずかにfluidが認められ、何が主訴なのか今ひとつわからなかった)。otitis externaがあって抗生剤を処方されたがその薬が“doesn’t work for me”2ヶ月前からsickproductive cough(greenish mucous) fatigue vomiting(not consistent)があって、、、と延々と訴えてきた24歳の女性が突然泣き出したときはちょっと驚いたけれど、先生によると彼女は同じような訴えで間違いなく何度もここに来ているだろうということだった。春休みでChampaignから実家に帰ってきているというUniversity of Illinoisの学生がgranulomaで受診してきた。 その他、infected fingerの女性、panic attackのフォローアップ。

3日目>

 午前中はDr. Quevedoにつかせていただく予定だったのだが朝clinicに行ってみるとDr. Quedevoは今日の午前中はclinicではないということで、Dr. Mizurが代わりに面倒をみてくださった。PAP smear2件、 back pain 薬の変更(back painstrep throatotitis externa8歳の女の子とviral URIのその子のお母さんを診た。
 午後は、カンファレンス “Meeting the Needs of the Islamic Community” “Vertigo” “The Red Eye and Trauma” どのお話もとてもためになったが、個人的には“Meeting the Needs of the Islamic Community”というcultural & religious diversityについてのお話がとても興味深かった。自分が向き合っているのは病気ではなく、もちろん検査値でもなく一人一人の人間であり、やらなければならないことは、病気という状態を前にしたときに患者さんがそれに対して一番いい対処をできるためのお手伝いなのだということを忘れないように、「一番効率よく(?)病気が治る=Good」という医療者としての価値観を押し付けないように、そういうことに対して感受性の高い医者になりたいと思う。
 カンファレンスの後、Dr. Quevedoclinicだったので午前中つけなかった代わりにつかせていただいた。41w6d posttermの妊婦さん cervical osはまだ完全に閉じていて、今日の8時にinductionのためにSt. John’s Hospitalに入院することに。 leg injurywell child care (乳児健診)3人(12ヶ月が2人、24ヶ月が1人)日光角化症の女性、ear infectionフォローアップの9ヶ月の男の子。ear infectionの男の子の両親は、お話を聞かせてもらっていても一体何が主訴なのかつかめず(ひとことめに「別にこの子元気なんだけど、、」と言われた時点で少し頭の中が白くなっていた)、1日目の反省を活かして(?)熱、食欲、元気さ、咳、鼻水、下痢、嘔吐、、、など聞いていったがとくに目立った所見もなく、1週間前にear infectionと診断されたということだがear dropを処方されただけで耳を痛がったり触ったりもしない、、、とますます自分が明確にすべきことは何なのかわからなくなっていった。先生と一緒に話を聞いてみると、2歳のお姉ちゃんがstrep throatだったのでこの子は違うと思うが心配になって受診したのがそもそも1週間前の受診理由だったとのこと、ストーリーをちゃんと引き出せなかったのは英語力のせいなのか、経験不足のせいなのか、、、。もっとできるようになりたいと思った。Dr. Quevedoはこの日、前述の41週目の妊婦さんの入院のアレンジと、昨日CCHCCapitol Community Health Center)で診たというectopic pregnancy疑いの患者さんに連絡を取るのとで大忙しだったが、自分で取り上げた子どもたちの乳児健診のときはとりわけ幸せそうにしていらっしゃって、私もとても幸せな気持ちになった。

4日目>

 今日は、朝から1Dr. Thompson(Valerie)についてOBの見学をした。今日は忙しい1日だということで、朝8時にナースステーションに行って尋ねても誰も「朝からまだValerieを見てない」ということで彼女を見つけることができず、30分あまり待ってようやく彼女と合流し、後で聞いてみるとその前にすでにお産が2件あったとのこと。その後私が帰るまでの間にさらに4件のお産があった。ValeriePAPhysician Assistant)の学生であるAlyssaがついていたので、彼女と3人で1日中病棟を走り回っていた。Alyssa2週間でお産を20件近く見たというのに対し、私は大学病院の産婦人科を2週間回って3件しか経腟分娩を見なかった(つまり、今日の4件の方が今までに見た全てよりも多い!)と言うと、少し驚いていた。私が見てきたのが大学病院のお産だったからかもしれないが、アメリカの病院のお産ではいくつか日本と違うことがあり、医学生としてというより一人の女性として、あるいは人間として考えたとき、今日見たお産の方が明らかにComfortableだと思った。ひとつは、分娩時に部屋の中に家族がたくさん入って一緒にお産ができること。日本のお産と違って分娩室という概念がなく、入院した部屋に家族がわんさか集まってその場で産んでしまう。内子宮口が完全に開大する直前まで、部屋の中で家族がハンバーガーを食べつつ(?)応援したりしていた。また、これも日本でもやっている病院もあるのかもしれないが、天井についているミラーを通して赤ちゃんが産まれてくる様子をお母さんが自分で見ることができる。苦しくてとても目が開けられず、ほとんど見られないお母さんもいたが、ばっちり見つめながら「あ、あ、出てる〜!」と叫びつついきんでいるお母さんもいた。家庭医がお産まで担当するという体制が、都市部の病院でPrenatal careを受けて出産直前に実家に帰って里帰り分娩する人などがかなり多い日本の社会にどれくらい馴染むものなのか、また、アメリカであっても専門家へのアクセスがよい都市部においてどれくらい定着しているものなのかは今の私には正直なところよくわからないが、少なくともこの地域では必要とされていると感じた。私が妊婦さんだったら、、、。正直なところ、難しい選択だと思うし、ケースバイケースという面があると思う。信頼できる産科医に出会えるなら産科医にお願いしたいと思うかもしれない。一方で、信頼している家庭医がいてその人がお産のトレーニングを受けていたら、ぜひお願いしたいと思うかもしれないし、、、。妊婦さんがいきむときに足を持たせてもらい(日本ではそんなに近くで見せていただけたことはなかった)、「お産のときにはこんなに力を入れるのか〜。」と驚いた。片足を、私が両手で精一杯支えても負けそうだった。
 夕方は、Journal Clubと称するEBMの勉強会に参加させていただいた。勉強会はDr. Richeのお宅で行われた。前の晩に伊藤先生にコピーして渡していただいた論文を簡単に読んでいったのだが、読みながら「一体この論文は何が言いたいんだろう?よくわからないな。」と思いつつも、「勉強会で使う論文なんだからきっといいことが書いてあるのに違いない。ちゃんと読んでいかなきゃ。」などと考えていた私はとんでもないお馬鹿な学生で、その論文は「ゴミ箱行き」だということだった。実を言うと、EBMに興味を持って(といっても本当に「興味を持っただけ」という感じで恥ずかしいのだが)簡単な本を一通り読んだことがあったのだが、実際に自分で実践してみたことがなかったので、書いてあったひとつひとつのことが実際には全く理解できていなかった。今日の勉強会に出て初めて、「批判的に吟味して有用かどうか判断する」「その論文は自分の患者に適応できるか?」などという言葉の意味が理解できた気がする。

5日目>

 ようやくClinicの様子に慣れてきた頃なのに、今日で実習が終わってしまった。今日も1日伊藤先生について実習をさせていただいた。午前中はいつもと同じClinic、午後はAcute Care Clinicだった。あまり天気がよくなかったせいなのか何なのか、午前中も予約していた患者さんの中に来ない人がたくさんいて、午後も、普段は15人から20人くらい患者さんが来るそうなのだが、今日は6人くらいしか来なかった。午前中みた患者さんは、3ヶ月の風邪のフォローアップの女の子、Prenatal visitpsoritis、喘息のフォローアップ+腹痛の患者さん。お昼休みにはchart review meetingがあって、昨日のJournal ClubでやったLDLコレステロールのコントロールについて、食事・運動療法についての患者さんとのディスカッションをドキュメントしているかどうか、、、などなどの項目について過去のカルテをチェックしていった。私も、何が行われるのかも知らずに行ってみるとattendingの先生にいきなりカルテとチェック表を渡されて「これをチェックしてね。」と言われ、思わず”Am I allowed to this…?”と聞いてしまった。(そうしたら、”Sure, yes you are!!”と言ってAttendingDr. Quevedoに笑われた。)実際に見てみて感じたのは、おそらく多くの先生方が患者さんとの間でこれらの項目について“Discussion”はしているのだろうけれど、きちんとドキュメントしている率は低いんだなあということだ。
 午後は、患者さんが少なめだったことが私にとって幸運だったことに(?)、簡単そうな患者さんについては先にH&Pを取らせていただくことができた。しかし、、、。外来のセッティングで的を得たプレゼンテーションをするということがどれほどむずかしいことなのかを痛感させられた3時間だった。私のような学生にも診断がだいたいわかるようなケースならまだいいとして、診断がよくわからないととてもじゃないけれど自分なりに上の先生に自分の判断を伝えるだけのストーリーが作れない。それでも、自分の意見をきちんと上の先生に伝えて何が上の先生に聞きたい部分なのか明確にできるようなプレゼンテーションができないとだめなのはわかっているのだけれど、、、。恐らく、判断材料になる知識や経験があまりにも少なすぎるからこんなにもめちゃめちゃになってしまうのだろうと思う。もっともっと勉強して、トレーニングしていい医者になりたいと心から思う。

<実習全体を通じて>

 正直なことをいうと、この5日間いつも心のどこかで、自分が「絶対に家庭医になりたい!!」という強い思いを持ってここに来ていないことに対して、guiltyを感じていたような気がする。そして、shy(?)で、どこに行ってもだいたい2週間目くらいにならないと初めて会った人たちに核心の話や質問ができない自分の性格にはがゆさも感じていた。みなさんがとても親切に接してくださることで、ますますそのはがゆさは増した。
 specialtyとしての家庭医が“業務”として何をやっているかは少し見えたような気がするけれど、continuing careを専門にする仕事の本当の醍醐味は、1週間の実習ではとてもわからないと思った。でも、「久しぶり!」と言って患者さんと話している伊藤先生の顔や、2歳児健診のためにやってきたお兄ちゃんとその子の6ヶ月の弟を見ながら「この子もこの子も私が取り上げたのよ!」と言って忙しくてもとても幸せそうに笑っていらっしゃったDr. Quevedoの顔から、ほんの少しだけれどそれを垣間見ることはできたと思っている。あと1ヶ月で医者になれるはずだったところを自分から1年遅らせておいて何を言う、という感じだけれど、「早く自分も医者になりたい!」と改めて思った5日間だった。
 また、Family Practicecontinuing & comprehensive careのまさに専門家であり、スタンダードのケアを患者さんに提供できる家庭医を育てようと思うなら、systematicな教育は絶対に必要だと思った。
 この5日間でもうひとつ考えさせられたことは、臨床家としての責任感ということだ。伊藤先生はしきりに、10年間の家庭医としての経験の後に臨床疫学の勉強をしに大学に戻られたご経験のあるDr. Ewartについて、彼の臨床家としての哲学“Do not harm.”とそれを貫こうとする態度がどれほど素晴らしいかと言うことを話してくださった。忙しい臨床の現場の中で、日々目まぐるしく変わっていくエビデンスに基づいて医療を行っていくことは極めて難しいことだと思う。それでもそれは決して不可能ではないと思うし、不可能であるなら可能にできる方法を私たち医療者はみんなで探していかなければいけないと思った。「まあいいや」と思ってしまいがちな自分の弱さに負けないで、“人間として人間のお世話をする”責任をきちんと貫いていけるか、、、。流されそうになったら、今の思いにいつも立ち返りたいと思う。

 人に見せるのが恥ずかしいような日記ですが、読んでくださった方、ありがとうございました。そして、私を実習に受け入れてくださった伊藤先生と、実習中お世話になったすべての先生方に心から感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。特に伊藤先生からは、ご自分のやるべきことに強い確信を持って一歩一歩進まれている姿を通してとても強いMotivationをいただきました。本当に本当にありがとうございました。みなさんが私にしてくださったことを必ず社会のために還元するつもりで、精一杯頑張ります!