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家庭医・プライマリケア医のためのアメリカ・米国臨床留学への道
それは一つのとても大きな挑戦です

はじめに

卒業試験の前の休みを利用して一度アメリカの研修医の姿を見てみようと思い、SIUでの実習に申し込みました。卒業試験との関係で、実際に実習したのは四日間でしたが、様々なことが経験できて有意義な日々となりました。

 スプリングフィールドといえばかの有名なアニメ、シンプソンズというイメージがあるのですが、実際には平和でのんびりしたアメリカの町でした。(実際、帰国後、外国人にスプリングフィールドに行ったというと、たいていシンプソンズに会ってきたか?と冗談で聞かれました。)まぁ、サンフランシスコ、シカゴで飛行機を二度も乗り換えてかなりの長旅で疲れましたが。実習前日に伊藤先生に会い、いろいろ話しをきかせてもらいましたが、家庭医学に対する情熱も、自分の人生設計にしても、しっかりした考えを持っていてさすがと思いました。伊藤先生の言うことは一つ一つもっともなことなのですが、なかなか実行するのはむずかしいことで、それらを全て計画通りに成し遂げてきた伊藤先生の意志の強さにはほんとうに驚かされました。伊藤先生に会って話しをするだけでも十分刺激的なので、興味のある人は、ぜひSIUの実習に参加してみてください。

 

1日:

 最初の日ということで緊張しながら、朝八時半にクリニックに向かいました。そこでCeciliaという女性に会い、簡単な説明とクリニックの案内をしてもらいました。そして、そこからはAttending physicianや研修医達のいる部屋で過ごすことになりました。この日の午前中は主にDr. Robbinsについて勉強しました。まず、何をしたいのかと聞かれ、短い期間しかないのでチャンスのあるうちに出来るだけのことはやっておこうと思い、患者さんをみたいですと言うと、「よしわかった」ということで、ある患者さんについて簡単な説明を受けた後に、患者さんの待つ部屋に連れて行かれて、「じゃあ終わったら教えてね」と先生は去って行きました。ここのカルテの書き方も知らないうちにいきなりまずいかなと思いつつ、話しを聞き始めました。その患者さんは18歳の高校生の男の子で、もともとADHDがあり、今回、高血圧について相談にきていました。患者さん本人はADHDの薬のせいかどうかわかりませんが、少しぼーっとしていてあまりしゃべってくれないので、一緒にきていた兄弟の方が主に答えてくれました。その兄弟の人は、筋肉隆々で腕に入れ墨もあるし、結構ぶっきらぼうな怖そうな雰囲気の人で、かなり緊張しましたが、なんとか簡単に話しを聞くことが出来ました。その後、Dr.Robbinsと供にもう一度患者さんのところに行き、彼が問診しなおして、その後で、Attending physicianにチェックしてもらいに行きました。ここでようやく一連の流れが把握できました。その後、赤ちゃんと統合失調症がある69歳の患者さんとどっちを見たいか聞かれたので、僕は69歳の患者さんを選びました。実際に話してみると統合失調症はそれほど感じられませんでした。質問にはちゃんと答えてくれましたし、思ったよりも話しがしやすかったです。この方は、高血圧と、腎臓にmassがあったということで来ていました。その後、Dr.Robbinsが用時でいなくなってしまったので、かわりに他の先生の診察をみさせてもらいました。その時に見たのは、サッカーで膝を痛めた男の子で、McMurrayテストなど整形外科的なテストをやっているのを見ました。たしかに家庭医学では幅広い分野の知識が必要なのだなと思いました。

この日の午後は伊藤先生のクリニック見学となりました。先生のところにも何人もの患者さんの予約が入っていて、診察を見学したり、患者さんに話しを聞いたりしました。僕が問診した女性の患者さんは血小板減少ということで来ていたのですが、話しを聞いてみるとI型神経線維腫症で、腫瘍を取り除く手術を何回もしたとのことでした。父方にはこの病気が多く、母方にはpolycystic kidneyが多いとのことでした。この人の英語は僕にとってかなり聞きづらく、リスニングの力不足を感じました。伊藤先生の診察の見学では妊婦さんのチェックや子供の発達のチェック等を見学させてもらいました。定期的なPapスメアのためにきていた女性がレズビアンであると話しをしているのを見て、アメリカらしいなと思ってしまいました。アメリカではsexually activeかどうかを聞くのは大事なことらしいので、患者さんもそういう質問にちゃんと答えていました。この日の午後のクリニックでは、伊藤先生がしっかりと臨床能力をつけていて、患者さんにきちんとした説明を、自信を持って行っていることにびっくりさせられたと同時に、やはりアメリカで臨床をやろうと思うならばここまで出来なければならないのだという現実をみせつけられた思いでした。この日の実習を夕方に終えて、伊藤先生といろいろ話しをした後、いまだに時差ボケが取れない僕はホテルに帰るなり疲れて寝てしまいました。

 

第二日:

 二日目の午前中はラウンドに参加した。研修医達がそれぞれ症例を検討しあうものだが、ジュースを飲んだり、お菓子を食べたりしながらリラックスした雰囲気で行われていた。最初に症例をプレゼンテーションした人の話しはよくまとまっていてわかりやすかったなぁと思っていたら、後でその人が学生であると聞いてびっくりした。さすがアメリカの学生、症状から鑑別診断をかなりたくさんあげて、その鑑別していくポイントを挙げながらどういう検査をオーダーすべきかを論理的に説明しながら話しをすすめていた。この時は、血小板減少について検討していた。日本の臨床実習でカルテを写してそのまま読み上げているようなものとは違って、その思考過程を聞いているだけで勉強になった。その後は、研修医達が症例について話していたが、雑談や笑いも交えながらで堅苦しさは全然なかった。この日は風邪をひいたのか部屋が寒かったのか、鼻水がとまらなくなって英語を聞く集中力がなくなってしまった。明日のラウンドはしっかり聞こう。

 午後はCHCCというところに行った。ここでは低所得者層に対して医療を行うところだそうで、伊藤先生についてPrenatalの診察をみた。低所得者層とういことでやはり黒人が多く、人種問題を肌で感じた。一人一人わりと時間をかけながら見ていましたが、途中から問診してみてと突然言われて、かなりとまどってしまいました。なにか症状があって問診するのなら、その症状に関連したことを聞けばよいですが、この場合は妊娠に伴う合併症を想定しながらきかなければなりません。つまり、妊娠に伴いやすい合併症をいくつか思い浮かべながら、現れやすい症状について聞く必要があります。最初は何をきいたらよいのか全くわからず、自分でも情けない気分になりました。そういえば、日本の臨床実習で妊婦の健診なんてさせてもらったことないなと思いつつ、何例か見させてもらいました。当然のことですが、見ているだけでわかったつもりになっていても、いざやれと言われるとなかなか出来ないものです。こうやって経験することが大事なのだろうし、何例も経験できるようになっているアメリカの教育システムがうらやましいとも思いました。また、子宮底までの長さや胎児心拍について何回も計測させてもらい、それらについてもだいぶ慣れてきました。日本の臨床実習では、産婦人科で何をやっただろうと思いつつ、いろんな症例をみさせて頂きました。この日も風邪ぎみなのか時差ボケなのかとても疲れてホテルに帰るなり眠ってしまいました。

 

第三日:

 今日の午前中もラウンドに参加しました。この日は、最初に研修医の一人がアルコールの禁断症状および振戦せん妄などについて発表していました。鑑別やその治療などについてかなり詳しく話していました。学生が一人増えましたが、この日は学生の発表はありませんでした。僕は研修医たちの活発な議論に圧倒されていましたが、よく見るとそこにいた学生二人もほとんど聞いているだけで、少し安心しました。それにしても、みんなものすごい早口でしゃべっていました。伊藤先生はあれが95%理解できないとアメリカで臨床をやっていけないと言ってましたが、そのレベルに達するには相当の努力が必要だと痛感しています。

 午後からはカンファレンスに参加しました。これは毎週一回あって、全ての研修医が他の仕事よりも優先して出席出来るようになっているらしく、研修医の教育に熱心であることがよくわかりました。この日は三人の講師がそれぞれのテーマでレクチャーをしていました。最初のレクチャーは行動科学の教授によるもので、宗教と医学をからめた興味深いテーマでした。ある男が飲酒運転で女性を跳ねてしまったのですが、その女性が輸血を拒否して亡くなってしまい、この男が殺人罪にあたるのかどうかという内容でした。まず、最初に、その事件についてのテレビ番組のビデオを皆で供覧し、その後で議論をすることになりました。やはりアメリカらしく各自が活発に発言するし、反論もすぐにとんできます。議論が白熱する中で伊藤先生がクリスチャンとしての立場から貴重な意見を述べ、みんなを納得させた時には、感動してしまいました。やはりアメリカでは議論に参加して意見を述べることが大事だということがわかりました。次のレクチャーは精神科の立場から、出産に関連した精神疾患についてのものでした。自分が精神疾患に興味があることと、その先生の英語が非常に聞き取りやすいこともあって、たいへん勉強になりました。主に先生の話しが中心でしたが、それでも途中で意見を求めると、常に誰かが質問や意見を述べていました。最後のレクチャーは出産後の出血についてのものでした。それぞれの先生のレクチャーはよく練られているし、きちんと準備しているのだろうなと感じました。聞いていて面白いし、日本でありがちなスライドの垂れ流しではありませんので、みんな真剣に聞いていました。そして、研修医達がそれぞれのレクチャーを評価する用紙を与えられているのもアメリカらしいと思いました。評価されるならレクチャーするほうも一生懸命になりますよね。

 

第四日:

 今日は最終日だが、伊藤先生が朝から日本に帰ってしまって、伊藤先生に会うことはない。最後のラウンドだ。がんばろう。

 この日はなぜか研修医たちが食べ物を持ち寄って、みんなで食べながらの症例検討となった。オムレツやワッフルを焼いたりしながら、ちょっと奇妙な感じがしたが、これもアメリカらしいなと思いました。患者は同じ人が何人も重なっているので、内容はいつもどおりという感じでした。

 午後からはDr.Nelsonのクリニックでした。このときに予約されていた患者はあまり問診するのに適当な人がいなかったのもあって見学中心となりました。最初は膀胱感染が疑われて投薬中だった患者で、培養では菌は検出されず、腟の感染を疑って検査をすすめることになりました。次は、躁うつ病の患者でした。このときは躁であったのでかなり印象的でした。たしかによく喋るのです。冗談を言いながら話しがなかなか止まらないし、そわそわして落ち着きがないのです。外国人の躁病を見るのは初めてだったのでかなり新鮮でした。次は、腰椎ヘルニアの患者でした。最後にかなり肥満の妊婦で、Breech positionPreeclampsiaを疑われていましたが、検査したところ、そういうわけではありませんでした。このカップルは二人とも知的障害を持っているらしいです。短い時間の間にも様々な患者を見ることができたと思う。この日で最後なので、最後にみんなに簡単にさようならを言ってクリニックを後にした。

 

最後に:

 今回イリノイに来て、初めて家庭医学を体験することが出来ました。僕は、日本では家庭医学を見たことないし、本やホームページで読んでなんとなくイメージしていたのですが、実際に自分の目で見るととても魅力的な科だと思いました。日本で家庭医学と聞くと、かかりつけ医か町医者のようなプライマリケアを思い浮かべる人が多いと思うのですが、そのイメージと大きく違うのは出産に関することではないかと思いました。ほんの短い期間いた中でも妊婦さんや赤ちゃんをみる機会がたくさんありました。たしかにFamilyにはお母さん、子供というのは最も重要な要素であるのですから当然のことかもしれません。そして、家庭に近いところで患者さんを見たい人にはとても興味深い科だと思います。僕のまわりにも子供や出産に興味があるのだけど、小児科や産婦人科に限定されたくない等と言っている人もいました。日本には家庭医学のような切り口の科が大学病院にはないので、そういう医学の存在を知らずに専攻を決めていく人たちがほとんどだろうと思います。実際にやりたい医学のイメージに家庭医学が近いのにそれを知らずに他の道を選んでいる人が潜在的にたくさんいるとしたら残念なことです。家庭医学という魅力的な科があることを知り、実際に自分の目で見ることが出来ればどんなに有意義なことでしょう。家庭医学に興味のある人はぜひ参加してみてください。ただ、英語はかなり努力しておくことが必要です。僕は自分の英語力がまだまだだということを思い知らされたので、英語の勉強は早いうちからしっかりしておくことをおすすめします。あと、これから参加する方へのアドバイスですが、ホテルのすぐ近くを列車が汽笛を鳴らし続けながら頻繁に過ぎていくので、夜寝るときのために耳栓を持っていくことを御勧めします。(かなりうるさいです。)