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家庭医・プライマリケア医のためのアメリカ・米国臨床留学への道
それは一つのとても大きな挑戦です

South Illinois University Springfield Family medicine residency program見学実習に参加して

初めに

Southern Illinois university department of family practiseにて実習をさせて頂きました。幸運にも私は伊藤先生に殆ど毎日つかせて頂くことができ、英語が分からずとても苦労しましたが、非常に貴重な経験をさせて頂きました。うまく表現できるか分かりませんが、日記形式で記述してみます。

2004/4/4
Dallas St.Luis経由で16時間以上かけてIllinoisSpringfieldに到着した。その夕方、この6月からSIUfamily practiceresidentとなるH先生、伊藤先生と合流し、夕食がてら貴重なお話を聞かせていただく。
その後宿に帰って、飛行機で殆ど眠れず疲れていたためすぐに寝ようとお風呂を入れていると、伊藤先生からの電話。先生の担当患者さんのお産があると言うことで、scrubに着替えてmemorial hospitalに向かった。妊婦は4回目の出産の黒人女性。経産回数が多いためかあっという間に生まれてしまった。私は大学のローテートで1ヶ月間産婦人科を回ったが、正常分娩を見たのはほぼ初めてだった。
最初に先生からCTGを見せられ「正常のCTGの定義は?」と聞かれた。思わず口ごもっていると、「日本の医学教育では異常については良く教えるけど、正常についてはあまり教えないんだよね・・」とのこと。初日から自分の医学知識の無さにknock out状態であった。

2004/4/5
a.m.
Morning roundが朝食を取りながらCafeteriaで行われた。今週のattendnig Dr.Suzewitsであった。どきどきしながら他のresidentを待つ。メンバーは皆冗談を言い合いながら楽しそうにしていたが、私は余りの英語の早さに四苦八苦していた。必死で集中しても会話の2〜3割しか理解できず!医学英語も少しは勉強してきたつもりであったが、分からない単語も多くひとつひとつの文章が耳に入ってきても患者さんのimageを構築することが出来ない。先生によると帰国子女の人で7〜8割、そうでない人だと2〜3割の理解の程度であるという。
roundの前に朝の勉強会があった。この日は伊藤先生の担当で、thyroid stormについてであった。その定義から治療法まで論文に基づいて発表していた。この発表は毎日当番制で行われており、日々新しい知識を吸収しようと言う気風が日本の(私の)大学よりずっと強く、素晴しいと感じた。Round後先生の担当の患者さんを回る。その間にもいくつか質問され、答えられず落ち込んだのだが、先生曰く、日本の医学生のレベルはアジアで最低レベルであるという。部活動で忙しく(特に低学年の頃は)1日に殆ど勉強しないなんて、日本位だという。多くの日本の医学生はこのことを知らないと思う。「東医体なんて無くしてしまえばいいのに。」。先生はそんな中低学年のころからアメリカ臨床留学を夢見て一人で勉強を続けていたという。最初は日本語、その後英語で勉強し、長期休暇には英語の勉強もかねてアメリカでホームステイをしていた。視野を広く保ち、周囲に流されず自ら学ぶことの大切さを痛感した。
また病棟を歩いていていろいろな人種・国籍の人々が一緒に働いているのが私にとっては新鮮であった。
p.m.:
午後はclinicで伊藤先生の外来を見学した。Clinicは完全個室で非常にプライバシーが保たれていた。性生活についてなどの突っ込んだ話するためプライバシーを保つことがとても大切だということ。患者さんは、annual pap smearの患者さんが3人、dentist からgeneral anesthesiaで手術を行うため医師の診察を受けてくるよういわれてやってきた9歳の女の子、back pain depressionでやってきたAfrican Americanの男性、bronchritis and otitis mediafollowでやってきた 10ヶ月の女の子、knee painを主訴にやってきて、結局は半月板損傷であった女性など。
患者さんを診るたびに先生はattendingpresentationを行い治療方針などの確認を行っていた。Primary care を学ぶにはバックアップシステムが整った理想的なtrainingなのではないかと思った。
アメリカでは、pap smearsexually active21歳以上の女性は1年起きに受けなければならないという。また、depressionのあるAfrican Americanの男性に対して先生は率直に自殺企図の有無を聞き、もし実行しようと思ったら、いつでも力になるのでいつでもERにくるように話していた。ここのClinicでは、depressionのある患者さんに対してはいつも自殺企図の有無を言葉に出して確かめ、いつでもERにくるように言うという。
私にとっては外来も英語との戦いであった。アナムを取るどころではなかった。患者さんの話は平均して7〜8割は理解できたが、相手の話方によって理解の度合いが大きく異なり、はっきり話してくれる人ならば良く分かるのだが、はっきりしない発音の人や半月板損傷のような自分になじみのない単語が中心になった話だとまったく分からないこともあった。

2004/4/6
この日は先生はon-call residentであった。On-call residentは全ての新規入院患者のH&Pを取る。
最初の患者さんはhead weakness, blurred vision (ぼやけた視野という意味だが、実はこの単語は分からなかった), headackeを主訴にやってきた40歳位の白人女性。尿検査でcocain(+)であった。先生が「何かドラッグやらなかった?尿検査で出ているけど…」というと、答えはNoで、傍についていた婚約者が言うには、最後にやったのは数ヶ月前であると言う。今回陽性となったのは、「誰かが彼女のカップに入れたに違いない」と。彼女はというと、目は落ち窪み、前歯が数本欠けている様子。麻薬中毒の患者さんを見たのは初めてであった。
他には、急性細気管支炎の赤ちゃん、DKAの男の子、shortness of breathを主訴にやってきたアルコール中毒の男性(最終的にはアルコール性心筋症疑いとされた)など。午後中休み無く走り回った。
あかちゃんからお年寄りまでどんな人が来てもH&Pを取れProblem listを作り必要な検査をあげていくことが出来る先生の実力に驚く。

2004/4/7
Am:朝から月一回の病院全体のConference(勉強会のようなもの)があった。Hospiceにおけるopioidの使い方について。Morning conferenceに行くとAttendingDr Brahart に交代していた。この日の朝の勉強会は詐病について
Pm: Resident conferenceに参加。Illinois 州内からDrに無償で来てもらいlectureをしてもらう。一つ目はBPHの診断・治療について。先生が質問を投げかけ、出席したresidentattendingがそれに答えて行く形式であった。話しの進め方が旨く、興味深かった。Attendingresidentが並んで発言していたのも新鮮であった。二つ目はNephron Sparing Surgery for renal cell carcinomaについて。これは専門的だったためか(英語力のためか!)よく理解できず…。
3つ目の題目はDealing with sexual child abuseであった。イリノイ州では1000人に一人という恐ろしい確率で子供がsexual chile abuseにあっている。何が性的虐待とみなされるか、risk factorは何か、見逃さないための実際の写真などを含め、熱心に講義がなされていった。18ヶ月の女の子の写真が出たときには、胸が痛くなった。日本でも虐待は増えており、連日のように報道されているが、アメリカではさらに多いのだろう。
 このresident meedingは講師の先生が皆熱心で聞いていてとても面白く勉強になった。この日は3時すぎに終わり、町をうろうろし、Lincoln Librarye-mailをしたりした。

2004/4/8
Am: 朝からいつものようにmorning roundがあった。この日驚いたのは、CABG後の患者さんが3〜4日で退院するということだ。抜糸は外来で行うという。アメリカの病院の平均在院日数は4〜5日と大変短い。常に医療費のことを考えながら診療が進むため、患者さんはなるべく早く家に帰す(もちろん必要があれば入院を続けるが。)。とにかくお金、お金で、薬も安価なものを用い、必要のない検査は決してしない。prenatalの外来でのエコーも、日本では先生いわく“記念のために”毎回行っているがアメリカでは最低限必要である2回しかしない。日本は不必要な、必要性のevidenceのない検査が多いことに気づいた。
Pm: 午後はしょっぱなからお産があった。赤ちゃんのパパや家族がワイワイと見守るなか赤ちゃんの頭がスルリと出てきて非常にbeautifulなお産であった。SIUの医学生のJohnが、最後に胎盤を引き出すのを手伝わせてもらっていた。日本の妊婦さんがこのようなお産を望むかどうかは分からないが、生まれた瞬間から皆に祝福され、とても自然体で幸せなお産だと感じました。
 お産の後は付属のNursing homeへの往診に。Dr.Olsonともう一人のresidentと伊藤先生の3人であった。Dr.Olsonは老年医学の専門で、Nursing homepatientの管理という題名でlectureをしていただいた。私の分もプリントを用意して頂いてあり、私の目を見ながら熱心に講義をして下さったが、例によって(済みません…)英語が分からず本当に残念であった。

2004/4/9
Am: この日印象的だったのは、数日前から入院していたDKAの黒人の男の子のことだ。この子は15歳のT型糖尿病で毎日のインスリン注射が必要なのだが、母親が麻薬中毒者で、父親は仕事を2つ持っていて昼も夜も家にいず、本人は両親のいない子のためのprogramを利用しているということだったが、実際はstreetで遊び歩いているという。退院先の確認のため家族に連絡をとる必要があったのだが、父親とは連絡が取れず、祖母に電話したところ祖母は今回の入院のことを知らなかった。結局父親のもとではなく、programのもとへ帰ることになったのだが、こういう子の血糖管理は難しく、多分また病院に運ばれてくることになるだとうということだった。命に関わるのに…本当は1日に3回血糖値をはかりそれに応じてインスリンを注射する必要があるのだが、せめて週に3回血糖を計ってくれとDr.Brahartと伊藤先生は口をすっぱくしていっていた。医療というのは社会と密接に結びついており、(特に開発途上国などでは)医療を改善するためには、社会と経済(貧困)を改善する必要があるというが、それが世界の超大国アメリカにも当てはまっていることに驚いた。
Pm:この午後は伊藤先生はclinicがなくお休みであったため、他のresident Dr.Nelsonclinicにつかせて頂いた。ガムをくちゃくちゃ噛みながら和やかに外来は続いた。患者さんは、土踏まずの異常を指摘されてやってきてついでにバイアグラの処方を頼んでいた軍人さん、shot ( vaccination )目的とnasal drainage(鼻漏)を主訴にやってきたニコニコ笑う赤ちゃん、学業成績が落ちたため体にどこか異常がないか見てもらうように言われてやってきた8歳の女の子(右の軽度の難聴疑いで耳鼻科紹介となった)、exertion induced athmalow teenの女の子など。

感想
今回私は、家庭医療学に直接興味を持ったのではなく、まったく個人的な理由で実習を申し込んだのですが、それにもかかわらずとても良くして頂き、伊藤先生とSIUの皆さんには本当に感謝しています。
Family medicineは赤ちゃんを取り上げるところから始まり、子供時代の病気、思春期の性教育、妊婦検診と出産、中更年期の鬱や生活習慣病のcontral、そして最終局面へと、一人の人の人生にずっと寄り添っていけて、日本にはまだ無いとても興味深い分野だと感じました。SIUfamily medicine residency programは、resident attendingがバックアップするシステムといい、良質な勉強会の多さ、症例数の多さ、勉強する時間が確保されていることなど、とても完成度の高い良いprogramなのではないかと思います。
また、この実習中強く感じたのは、evidence based medicineの重要性です。患者さんの利益のために(もしくは”Do not harm”のために)目まぐるしく変わってゆく最新の治療・研究結果を常にチェックし、実行してゆく姿勢が必要です。”You have responsibility ! ”と伊藤先生によく言われましたが、最善の治療結果が証明されている治療法を選択する、有用性が明らかである検査以外は患者さんの負担になるだけなのでしない、それらの事柄を証明している論文の信憑性を吟味する力が必要だと感じました。この姿勢を貫いていくことはとても困難なことだと思いますが、一歩一歩努力していきたいです。
その他にも、英語力の決定的な不足、学力の不足、周りに流されていて自ら学ぶ姿勢が不足していたことを強く認識、反省。また1週間の間に垣間見たアメリカ社会の裏の顔、自分の周囲の環境におぼれるのではなく、視野を広く保つことの大切さ、何よりも先生の生き方を見て、大きなmotivationを頂き、とても掛け替えの無い経験になりました。英語力の無い私の実習を受け入れて下さり、親切にして下さった、伊藤先生、SIUの皆さんに深く感謝いたします。