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家庭医・プライマリケア医のためのアメリカ・米国臨床留学への道
それは一つのとても大きな挑戦です

2005年4月25日から4月29日の一週間、伊藤彰洋先生とSouthern Illinois University Springfield Family Medicine Residency Programのご好意により、SIU Center for Family Medicineにて見学実習する機会を頂きましたので、報告させていただきます。

日曜日(4月24日)

 シカゴ経由でスプリングフィールドに入る。この間、空からはほとんど畑しか見えない。黄色いパッチワークのような畑の中に木立などに囲まれた農家がゆったりと点在している。田舎が好きな私には願ってもない環境だ。空港も降り立ってみるといたってシンプル。人影もあまりない。タクシーに電話をかけていた地元のご婦人と相乗りでモーテルに向かう。この人は娘さんが日本でホームステイしていたらしく、その関連で、スプリングフィールド在住の日本人(といっても両手に入りきるくらいの人数しかいないのだが)についてあれこれ知っていていろいろ教えてくれた。町やリンカーンに関しても簡単に説明してくれ、図らずも、これがスプリングフィールドに関するオリエンテーションとなった。

月曜日(425日)

 指示通り、朝8時過ぎにクリニックの入り口で待っているとしばらくして先生が現れる。なんとこの日は先生の婚約発表の日であった。その場にいる人々に一通り報告してから診療が始まる。まずは横で黙って見ていることにしたが、やはり英語が聞き取れない。妊婦の定期健診、血尿のフォローアップ、乳児検診、PAPスメア、血便、腰痛、Fibromyalgia などの患者さんがいた。妊婦が15歳であったり、保険がないために高血圧の薬を買えない老女に薬の種類を減らす指導をするなど、いかにもアメリカらしいと思う場面もあった。伊藤先生が自然に、かつ自信を持って受け答えをされているのが印象的だった。午後はacute care clinic(予約なしでその日来院した患者の診療)でドクター・テレツという一年目のレジデントの先生とドクター・ユワートというアテンディングの先生に付かせていただいた。午前の予約ありの外来に比べると、症例がバラエティーに富んでおり、回転が速いので勉強になる。テレツ先生は大変優しい女の先生で、1年目で余裕がないはずなのに(もっとも私から見ると患者の診察や、プレゼンテーションなど完全に板についているように思えたのだが)私の面倒もきちんと見てくださった。ちょうど同時期に来ていた愛知医科大の学生さんは問診などもどんどん取らせてもらっていたが、私は見ているだけで一日が終わってしまった。

火曜日(426日)

 伊藤先生はスポーツ医学のクリニックに行ってしまっていないため、ラジュー先生というインド系の先生に午前中付かせていただいた。愛想の良い親しみやすい先生だった。小学生から中学生くらいの男の子が二人、スポーツをするための健康診断に来た。腰痛と爪の真菌感染できた兵士、関節炎と高血圧の中年女性、(関節炎はまずibuprofenを処方し、x線はどうしても痛みが引かないときや悪化するときのみオーダーすると患者に説明していた。薬や検査は必要でなければ使用しないという原則が徹底している。またこの女性は高血圧を放置していたが、その点も医師がすかさずチェックを入れて指導していた。)うつ病、指の骨折、咽頭痛など。ずっと見ているだけではだめだと思い最後の患者さんの問診を取らせてもらう。67歳の女性だったが、コチコチになって”why do you come to the hospital today?”と聞くと、いきなり”I don’t know…”との答え。一気に脱力した。その人は結局ウイルス性の咽頭痛ということで、特に処方もなく帰っていった。

 午後はルー先生という中国人の女性の先生だった。非常に優しい雰囲気の方で、患者さんに対する受け答えも柔らかかったが、説明では何を問題と考えそれに対しどのような解決策をとるかきちんと話し、駄目なことはピシリと釘をさしており、さすがと思った。この日は産婦人科の患者ばかりで、しかも初診の妊婦が二人いたため、午後の診療が終わるころには先生もややお疲れの様子だった。ご自身もお子さんがいらっしゃるとのことだから、かなり忙しい日々を送っておられるのだろう。妊婦の初診はリストに従って詳細に問診を取り、リスクや出産までの流れなど細かく説明するため、勉強になった。日本では、産婦人科以外の科の医師がこうした診療をすることはほとんどない。

水曜日(427日)

 午前中、family practiceの外来で伊藤先生に付かせていただく。アメリカへ来た意味が半減するとわかってはいても、日本語であれこれ質問できるとやはりほっとする。最初に来た黒人女性は、伊藤先生との付き合いの長い患者さんだった。初めはうつ病で来院し、かなりひどい状態だったが、時間をかけて付き合っていくうちに肥満もなくなり、精神的にも落ち着いてきたとのこと。患者と長く付き合い、精神面、家族関係、食生活、保険の問題などの相談にも乗りながら信頼関係を築き、健康上の問題と一緒に解決していく―――こういう診療は、患者側のベネフィットが大きいだけでなく、医者の方も、治療の中でより大きな喜びを味わえるのではないだろうか。馴染みの患者さんに向かっている時の、生き生きした伊藤先生の顔を見てそう思った。

 午後はカンファレンス。昼食は製薬会社が提供してくれる。カンファレンスルームの前で、スーツを着た製薬会社社員がドクター達を待っているのは日本とあまり変わらない。しかしカンファレンス自体は日本と違い、レジデントのための講義になっている。毎週、あちこちの科から指導医が来て講義をする。講義といってもリラックスした雰囲気で、レジデントはわからなければすぐに質問し、逆に指導医から質問されたときには率先して答える。このカンファの質がレジデントプログラムの質を大きく左右するとのこと。因みにこの日は異文化理解のための映画鑑賞もあった。一瞬呆気にとられたが、レジデント、アテンディングともにIMGが多いこの病院では、異文化受容、交流は重要なテーマなのかもしれない。その後は、小児感染症の専門家が典型的な症例を元に起炎菌、治療などについて説明してくれた。

夜、伊藤先生にステーキレストランに連れて行っていただく。アメリカのステーキはさすがに大きい。先生の体験談や将来の展望、EBM、家庭医学から人生観に至るまでいろいろな話をしていただいた。最後は先生のフィアンセから電話が入り、お開きに。

木曜日(428日)

 午前中:伊藤先生の外来。胎児の心音を測定したり、子宮底長を計ったりする。中耳炎の乳児、予防接種、21歳の腰痛の患者は痛みのあまり泣き出し、アテンディングの先生も出てきて一緒に診療に当たった。この日もPAPスメアの予約が入っていたが、以前に異常所見なくsexually activeでないので、キャンセルに。こういう患者さんは結構多い。そんなときでも、高血圧や肥満などその患者が抱えているほかの問題を同時にチェックする。だから患者が医者と話をすることなく帰ることはない。それにしても、黒人も白人も日本ではちょっと考えられない位太っている人が多い。比較的経済的に貧しい地域だからなのか、食生活に問題があるのか、何が最も大きな原因なのだろうか?ドクター達の食事指導に関する知識の多さにも驚かされる。

 午後はDr.Whalenという女性の先生。先日出産したばかりで、何人もの患者さんから「おめでとう!」と言われていた。最後は子供の写真を持ってきて見せながら診療していた。

金曜日(429日)

 午前中:伊藤先生についてacute care clinicに。初めはsore throatの患者が立て続けに来て、今日はゆっくりペースかな、と思いきや、途中から患者が増えて大忙しになった。ここではいろいろな患者さんの問診をとることができた。因みにsore throatの患者でもきちんと鑑別をして必要だという根拠のある患者にしか抗生物質を処方しない。私が問診を取ったときは同じような症状だと思っても、「この人は熱が高くないから」「exudateがないから」と言うような理由で薬なしで帰す患者さんがかなりいた。昼になってもまったく終わりそうにないので他のレジデントたちも助っ人にやってきた。めまいを主訴に来院した60前後の女性がかなり重症だと言うことでアテンディングが引き取り入院することになった。担当になったレジデントの先生はものすごい勢いで質問し、身体所見をとってめまいの鑑別をしており、圧倒された。

 午後は伊藤先生の外来へ。最後に簡単なまとめと現在の私の問題点などに関するアドバイスを頂いた。

最後に、今回の見学実習で最も印象に残ったことをいくつか挙げる。

まずは情けない話だが、自分の英語力のなさ。伊藤先生から「英語も、医学もとにかく勉強することだよ。」と言う言葉をいただいた。本当にその通りだと思う。

もう一つは、日本の研修医とアメリカのレジデント(特に伊藤先生は同じ日本人という事から印象深かった。)の違い。アメリカではレジデントの時点で、ある程度独力で診療を行える技術と知識を身につけており、その点においては本人も自信を持っている。(ように見える。少なくとも。)これはいずれ大半が開業医への道を進むことにも繋がっているのだろう。将来の展望もより具体的である。日本のように医局で言い渡されたところへ行く、というようなことはないようだ。

最後に、アテンディング陣の層の厚さ。レジデントの机のある部屋へ行くといつも必ず、アテンディングが一人か二人、レジデントを指導するために待機している。カンファレンスのように研修中も講義を受ける機会が定期的にある。日本の大学病院では、指導医が研修医のために待機する時間を作るのは難しい。さらにアメリカでは優秀な指導医に、気兼ねなく何でも聞くことができる。

アメリカのような環境に身を置けば、日本の研修医もアメリカ人と同じような知識・技術を身につけることができると思う。そういう環境をどうやって見つけていくか、またそこへたどり着くために、どうすれば自分を高めていけるのか、現在の自分の抱える問題に直面した一週間でもあった。しかしやはり、新しいものに触れ、日常とは異なる環境に身を置くのは楽しい。このような機会を与えて下さった伊藤先生とSIUレジデンシー・プログラムの方々に深く感謝いたします。どうもありがとうございました。