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家庭医・プライマリケア医のためのアメリカ・米国臨床留学への道
それは一つのとても大きな挑戦です

Family Medicine Residency Program に参加して

学生時代最後となる夏休み、私は以前より行ってみたかったアメリカの病院へ研修に行こうと決心した。漠然とアメリカで臨床留学をしてみたいとずっと思っていたが、実際に日本と何が違うのか、話には聞いているが何がどう良いのか、を自分の目で確かめたかったからだ。そんな時、インターネットで偶然、伊藤先生のHPを見つけた。プロフィールによると、日本の医学部を卒業してストレートでレジデントとして働いてみえるという。私は以前より家庭医療・地域医療に関心があり、是非お話を直接伺いたいと、迷わずプログラムに申し込んだ。この感想文を読まれる方々に、初めに申し上げておきたいのは、私の英語力は完全に不十分で1対1での会話はなんとか、という位のレベルであることだ。日本でもちろん英語の勉強はしていたが、実習初日、予想以上に速い英語に冷や汗が流れた。したがって私の前に参加された方のように問診を取ることはせず(できず)、ひたすらobserveに努めた。だから、もし海外実習に行きたいけれど英語が・・・と尻込みしている方がいれば、どうぞ、安心して読んでいただきたい。

自分の日記代わりに綴ったものでもあるので、少々くだらない記述があることを初めにお詫びする。

1日目
 海外へ研修に行くのは初めてなので少々緊張しながら、8:30Center for Family Medicineへ行った。伊藤先生にお会いするのも今朝が初めて。どんな人だろうと待っていると先生が白衣を持って現れた。第1印象は、若い!ということだ。ストレートでレジデントをしてみえるということは、学年でいうと私と2つしか変わらない。若いのは当たり前なのだが、たった2つしか違わないのに海外で臨床をしているなんてすごいなぁ、とあらためて感心する。少しお話して白衣をお借りした後、秘書のCeciliaから今週の予定表をもらう。右も左もわからない状態だったが、なんとかがんばっていろいろ説明を聞き、クリニックを案内してもらった。クリニックは二階建てで1、2階ともに各Dr.の診察室がいくつかある。日本でいう、いわゆる外来棟のようなものだ。小児の患者が多いためか、壁にはミッキーマウスやテディベアのシールが貼ってあり、日本の小児科外来と似た雰囲気だ。午前中は伊藤先生に付かせていただき、診察を見学した。Family Practiceというだけあって、子供から大人まで、実にさまざまな患者様が来る。当然だが人種もさまざま。驚いたのは妊婦さんまで診ていること。日本で家庭医療や地域医療を行っている病院はいくつか見たが、さすがに妊婦さんはいなかった(最近では日本でも妊婦さんも診る家庭医療・総合診療部もあるそうだが)。日本のように妊婦検診でエコーは使わないことも驚いた。午後はDr. Thomasのクリニックを見学。女医さんだ。ひたすら会話を理解しようと集中する。予想以上に速い英語にショックを受ける。自分のヒアリング能力の無さを痛感。日本に帰ったら必死に英語の勉強をしようと心に誓う。小児の患者さんが来ると、さすがに子供の話すことならわかるので、少しほっとした。患者さんに関しては、主訴なども日本とそんなに変わらないと思った。医師の言うことをきちんと守る人もいれば、薬を全然飲まない人、いろいろなクリニックを転々としている人・・。Dr.の対応が、どんな患者さんに対しても迅速かつ丁寧で、きちんとトレーニングを積んできているのだろうと感じた。16時半には診察終了。「これから息子を学校に迎えに行かなきゃ行けないの」とDrはすぐに帰って行った。同じ女性として、家庭と仕事を両立させている女医さんは、やっぱり素敵に見える。 
17時からは肥満や高血圧を抱える患者さんへの健康相談を見学した。自分の健康状態に不安がある、食事や運動で体重を減らしたい、禁煙したいという患者さんをサポートするものだ。患者さんは年間契約をし、自分の健康を改善するのに必要なサポートを受ける。毎回体重・血圧を測定し、次回までの目標をたてる。たとえば「週2回していた運動を3回に減らして体重をあと3lb減らす」といったものだ。食事や運動に関するカウンセリングはそれぞれ専門家によって行われていた。患者さんはといえば、体重を減らしたい、というだけあって皆大柄な体型だ。血圧を測らせてもらったが、二の腕があまりに立派でマンシェットを上手に巻けず、手間取ってしまった。このようなクリニックがあるのもFamily Practiceならではだなぁと思った。

2日目
  今朝は9時からHospital Roundに参加する。場所はCenter for Family Medicineではなく近接したMemorial Medical Centerという大きな病院だ。500床位と聞いたが、もっとずっと大きく見える。Hospital Roundでは、病棟に入院している患者さんについての主治医からの報告と、治療方針が話し合われる。入院患者さんの一覧表をもらってみると、NeonatalからNeurosurgeryまで実にさまざま。こんなに広い分野の知識をどうやって習得できるのだろうと驚く。Dr.同士の会話は更に聞き取りにくく、難しかったが、なんとか患者さんの状態については理解する。Round終了後には新生児の診察を見せていただいた。ちょうど1日前、2日前に生まれた赤ちゃんたちで、とてもかわいかった。また、チームにSIU3年生の学生が2人いたので、roundの後少し喋った。ちょうどそのうちの1人が10月にSTEP2を受験するというので、試験対策情報なども教えてもらう。
  午後はずっとカンファレンス。全部で3つのTopicがあった。100%理解できたわけではないが、プリントやスクリーン、ビデオを使ったlectureはどれも面白かった。また参加者全員が積極的に意見や質問を交わす姿が印象的だった。私の知っているカンファでは絶対に、結構な人数が寝ていたような・・・。

3日目
  今朝も9時からHospital round。今日は”meal day”ということでいつものMemorial Medical Center Resident Loungeではなく、St. Jones HospitalTea Roomで朝食をとりながら行われた。Dr達は2つの病院を行ったり来たりしなくてはならないので、なかなか大変そうである。実際今日も場所が違うということを忘れて Resident Loungeで待っていた先生がいらして、慌ててSt. Jonesに駆けつけてきた。皆がそろって全員の食事がそろってから、round開始である。なんとなく耳が英語に慣れてきた気がする。昨日よりたくさんチームの先生方とお話ができて、がんばって患者さんについての質問もしてみた。Round後はResident 1年目の先生とAttendingにくっついて、病棟を回った。カルテや画像も見せてもらうことができた。病棟の雰囲気は日本とそんなに変わらない。
  このResident 1年目の先生、Dr. Bolinaoに一緒にLunchへ連れて行っていただいた。このDrはフィリピンのMedical Schoolを卒業後、最近ECFMGを取得して、Springfieldにも来たばかりだという。なぜアメリカにきたのか、なぜFamily Practiceを選んだのか、マッチングはどうだったか・・などたくさん質問していろいろとお話を聞くことができた。その後、医学書の専門店に連れて行ってもらう。日本では、洋書は人気のある本しか書店になく、インターネット上で探すことが多い。内容を見てから購入することはなかなかできないので、とてもうれしかった。
  午後はDr. Brenhamの診察を見学。偶然2年生の医学生の女の子と一緒になる。彼女は今日が実習の初日ということでとてもはりきっていた。Dr. Brenham30歳前後の若い女医さんで、とてもきれいな方だった。今日の患者さんは小児が多く、子供好きな私にとってはとても楽しかった。学生2人で患者さんの問診をとらせてもらうこともできたし、小児の患者を押さえるなど少しは先生を手伝うことができた。今日のクリニックは予約患者さんも多く、6時半頃までかかった。私は見学したかったので最後までいたが、一緒だった学生の子は5時になるとさっさと帰ってしまった。まだ診察をしている先生にはっきりと「5時なので帰ります」といえる大胆さに驚いたが、内心すごいなと感心。私には、というか、日本の学生にはなかなかできないこと・・・度胸のいることだろう。学生に限らず、どの先生も、基本的にクリニックは5時迄で、5時を過ぎると「大変、帰らなきゃ!」と慌てだす。医者のQOLの高さを実感する。

4日目
  今朝も9時からRound・・の予定だったが、Dr. Brenhamの患者さんが産気づき、思いがけず出産が見学できることになった。大学の病院実習で経膣分娩2回、C-section1回は見たことがあるが、大学病院なので皆、羊水過多や羊水過少等リスクを持った妊婦さんだった。何のリスクもない、いわゆる「普通のお産」をみるのは初めてである。分娩室といっても一見ホテルの一室のようだ。テレビもあるし、家族が座れる椅子やべンチもある。妊婦さんは妊娠34週、23歳の白人女性、第2子である。看護婦さんやDr達は実に上手に彼女を励まし、countに合わせてりきませる。無痛分娩と聞いたが、それでもとても苦しそうだった。妊婦さんが悲鳴を上げて「もうだめ、できない!!ERに連れてって緊急のC-sectionをしてよ!!」(そんなことできるはずがないが)と絶叫し始めたころ、やっと赤ちゃんの頭が見え始めた。そのころやっと旦那さんが到着。しばらくりきみ続け、絶叫の後、やっと赤ちゃんの頭が全部出た。Drがすばやく取り上げ、待機していたナースに渡す。元気な男の子だった。やはり何度見ても、生まれる瞬間は感動してしまう。 午後はAttendingのクリニックを見学する予定だったが、伊藤先生の診ている妊婦さんが生まれそうだというので、クリニックを途中で抜けて分娩を見学した。妊婦さんは18歳の黒人の女の子で、火曜の診察に来ていた子だった。彼女の部屋に入ると、姉妹やらお母さんやら友人やらがたくさん集まっていてパーティーのようだった。赤ちゃんが生まれるのが本当に楽しみな様子で、ビデオを抱えて皆のりのりである。旦那さんはその中の唯一の男性で、女性陣のパワーに圧倒されていたのだろうか、ただただ無言で心配そうに手を握るだけだ。いざ生まれる!となってみると、皆好き勝手にはやしたて、”Go! Go! Go! ” “ Push! Push! Push!”と、とてもにぎやかだ。最後には妊婦さんが怒り出し “OK, everybody. Be quiet PLEASE!! THANK YOU!”と言い出す始末だ。十分にりきめず、とても苦しがっていた妊婦さんには気の毒だったが、家族がこんなに大勢分娩に立ち会えるのはアメリカならなのではないだろうか??(私が知らないだけで、日本にも、家族なら何人でも立ち会える産婦人科もあるのかもしれないが)
 お産を2つも見ることができただけでもラッキーと思っていたのに今夜はもう1つお産があるという。ただ何時になるかわからないので、伊藤先生と一緒に当直をさせてもらうことにする。夕飯から帰ってきた後、Resident Loungeでひたすら待つ。3人目の妊婦さんは黒人の13歳の女の子、妊娠42週だ。やっと明け方の5時すぎに子宮口が全開した。私も手洗いさせてもらい、間近で分娩を見ることができた。先生と一緒に赤ちゃんを取り上げた。思った以上にぐにゃぐにゃしていた。娩出の後臍帯を引っ張り、腹部をマッサージしながら胎盤を取り出す。今まで、一歩離れた場所から分娩を見たことしかなかったので、すべてが初めての経験だった。分娩がすべて終了したのは朝6時半ごろだった。

最後に
私事の都合で1週間しか時間がとれず、実際の実習は4日だけという短い期間だったが、分娩の見学や当直まですることができ本当に貴重な体験となった。アメリカの医療に少しでも触れることができたこと、伊藤先生からいろいろなお話を聞けたことで、自分の将来の目標を具体的に考えられるようになった。Family Medicineは、日本では未完成な分野で、私がイメージしていたものとは少し違っており、とても新鮮で興味深いものだった。まさにFrom the cradle to the graveである。英語力も知識も乏しい学生にこのような機会を与えてくださった、伊藤先生をはじめ、SIU Family Practiceの先生方、スタッフの方々に心から感謝します。

本当にありがとうございました。