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家庭医・プライマリケア医のためのアメリカ・米国臨床留学への道
それは一つのとても大きな挑戦です

11/12/02

先週ALSOを受講してきましたので報告します。ALSOAdvanced Life Support in Obstetricsの略でAAFP, American Academy of Family Physicianが主催しています。これは文字通り産科(Prenatal,Labor,postpartum)に関する救急処置を身につけるためのコースです。有効期間は5年間で病院によってはこの資格がないとFPに分娩をさせないという所もあるようです。SIUのプログラムでは全レジデントが1年次に受講します。僕以外の同僚は6月に受講しました。僕は来月から2ヶ月間OB実習なため、その前になんとしても受講したい、ということで500キロほど離れたウィスコンシン州の小さな町まで行ってきました。毎年7日間のEducational Leaveという休暇が与えられているのでそれを利用していってきました。コースは2日間に渡って行われました。事前に他のALSシリーズのように分厚い冊子を渡されていました。

参加者はドクター8名、医学生1名、ナース16名でした。講師は助産婦1名、ドクター4名でした。

朝7:30から夕方16:00までレクチャーは30分ごとに

1日目は1 First Trimester Complications 2 Medical Complications 3 Shoulder Dystocia 4 Assisted Vaginal Delivery 5 Malpresentations 6 Safety in Maternity Care 7 Preterm Labor/PROM 8 Intrapartum Fetal Surveillanceというタイトルで、午後は実習でAssisted Vaginal Delivery(バキュームと鉗子の使い方)Shoulder Dystocia, Malpresentation(殿位での出産の補助の仕方)OB case presentationを行いました。

2日目は1 Labor dystocia 2 Maternal Resuscitation 3 Postpartum Hemorrhage 4 Vaginal Bledding in Late Pregnacy 5 Ultrasound というタイトルで、実技はUltrasound,Intrapartum Fetal Surveillanceがあり、午後は筆記試験と実技試験でした。

筆記試験は70問ちょっとで25問まで間違えられます。結構ひねくれた問題も多く僕はぎりぎりで合格でした。僕以外の大半の受講生は産科経験がかなりある人たちばかりでその人たちにはとって筆記試験はそれほど難しくなかったようにようです。実技試験は試験官2名と受講生1名で行われ、僕はレジデントということでより実践に即した内容(特別メニュー?)で行われました。というのも、多くのナースは助産婦でない限り実際に赤ん坊を取り上げることは稀だからです。ほとんどはドクターが取り上げます。

今回のコースでポイントとなるのは実技実習、試験でした。今まで分娩の経験が全くないに等しい僕にとって人形でもって練習できたことは大いに自信がつきました。それも例に漏れずに語呂合わせを覚えて、その通りに行っていくわけです。僕は大学の5年次BSLで産婦人科を2週間まわりましたが、その中で産科は1週間だけでした。実際に正常分娩を見たのは2,3回だったと思います。後はチャートシリーズの産婦人科で勉強した程度です。当然、産科では学生に取り上げさせてくれませんでしたし、ただ見て終った、という感じでした。産科は日本では産婦人科にならない限り全く扱わないということもあり、興味のない学生にとっては試験だけの勉強で終ってしまう科目の筆頭なのではないでしょうか。

ERに担ぎこまれた妊婦が分娩室に行く暇もなく分娩がはじまり、しかも殿位です。産婦人科医も家から駆けつけるため後5分かかります。もう胎児のお尻が半分でかかっています。

皆さんならどうしますか。自分で取り上げるしかありません。何に気をつけますか。まずは腰が出てくるまでじっと待ちます。何もしません。腰が出てきたら腰骨を引っ張ります。肩甲骨が出てきたらゴールは近いですね。次のポイントは胎児の頭をhyperextensionにしないため両手でうまく保護して引っ張り出してやることです。いつどこで自分が分娩に立ち会うか分かりません。最低限の知識と技術は身につけておきたいと思います。

来月から2ヶ月間産科実習です。ALSOで学んだことをフルに生かして望みたいと思います。3年間を通じておそよ100回近く赤ん坊を取り上げることになるそうです。妊婦にはACLSALSO、赤ん坊にはNALSで望みます。もちろん、これらをできる限り使わずにすむことを願っていますが・・・生命の誕生の瞬間に立会い、その家族と一緒に喜び合えることはすばらしいことですし、これも家庭医としての醍醐味の1つでしょう。

今回一緒に受講した老年ドクターについても少し触れておきたいと思います。彼は72歳で半現役のFPです。仕事を続けるためにはACLS,ATLSALSOの資格が必要だということで定期的に受講しているそうです。一緒に語呂合わせを覚たり、自分でノートにびっしりと書き込みをして新しい知識を詰め込んでいました。僕が彼の年になって同じように数年置きにコースを受講し、筆記試験、実技試験に合格し続けることが果たしてできるだろうか、と大変考えさせられ、刺激を受けました。皆さんも受講してみれば分かると思いますが、決して簡単なことではないからです。大学の教授、助教授全員がACLSをマスターしていつでも、どこでも、誰にでも施せるとは夢にも思いません。

ALSシリーズもこの4ヶ月間にBLS,ACLSPALSNALSALSOと受講してきました。残すはATLSです。これらのコースでは受講資格が特にありません。HPで各コースについての日程、連絡先などが分かります。特に学生の皆さん、費用はちょっとかかりますが、海外旅行や遊びに費やすお金をこれらのコースに当てても決して損になることはありません。時間のあるうちに一度でも受講しておくことをお勧めします。皆さんはどんな言い訳をしても一医学生として医療の道に足を踏み入れてしまったのですから・・・最低限の対処法を知ることは最低限のマナーです。

伊藤彰洋