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家庭医・プライマリケア医のためのアメリカ・米国臨床留学への道
それは一つのとても大きな挑戦です

先月は念願のホスピスローテーションであった。学生時代からホスピスに興味を持っていたこと、SIU2年目に1ヶ月選択ローテーションができるが、その選択肢としてホスピスが去年から新たに加わったこと、とてもすばらしい指導教官の下で学ぶことができるということ、などの理由から前々から楽しみにしていた。

SIUではホスピスの選択実習が学生中にも可能だが、レジデント研修としてはFamily PracticeGeriatricsの一環として以前から1週間ほど組み込んでいたが、それを選択ローテーションとして1ヶ月に拡張したものが今回、僕が行った研修であった。

指導教官は家庭医として40年以上地域に携わってきたDr.Hollandである。彼はスプリングフィールドで家庭医として5年ほど前まで活躍していたが、個人開業を止めて、ホスピス専門医としてSt.John’s病院ホスピス病棟の責任者として現在は活躍している。彼の長年の家庭医として培われた知識や技術、人間関係の集大成が彼の行うホスピスケアに現れているといってよいだろう。多くのホスピス患者は親戚、友人がホスピスで非常に良い最後を迎えられたという噂を聞いて入ってくる人が多い。また、数百人に及ぶドクターたちの間でも彼は信頼を得ており、多くの専門家からも患者が送られてくる。

St.John’s病院ホスピス病棟は16床ほど場所で年間400−500人のホスピス患者がその最後を迎えていく。一方で在宅ホスピス患者も20数人ほど持っていて3人のナースが訪問看護を専門に活躍している。ホスピスプログラムはMedicare(政府の保険)によってカバーされており、予後が6ヶ月未満と診断されるとホスピスプログラムの各種恩恵が受けられる。ドクター、ナース、ケースワーカー、薬剤師、栄養士、カウンセリング、チャプラン(宗教的カウンセリングを専門に行う人)などによって構成されるメンバーが中心となり、患者がもっとも満足のいくプランを立てていく。それに伴う薬代、備品代などもほぼすべて保険でカバーされる。

患者は在宅看護が中心となるが、患者の様態や介護者の状況により一時的に病棟に滞在するとうケースも多い。在宅で痛みのコントロールはほとんどできるが、吐き気や嘔吐の対処法が難しく、そのために病棟でナースによる一時的ケアが必要であることが多いということであった。

ホスピスケアは患者がいかに苦痛なく過ごせるか(comfortable)ということを徹底的に追求した医学的分野と思えた。この苦痛なく過ごす、という意味には多くの意味が込められている。肉体的、精神的、社会的、宗教的など多彩な方面からアプローチし、患者の最後の瞬間までケアをしていくわけである。

1ヶ月のローテーションで7割近くを医学的ケアに焦点を当てて学んだ。ペインコントロールにおける薬の選択の仕方、副作用の対処法、代替両方など、ホスピスケア独自の視点がそこには存在した。近年この分野が専門領域として確立されてきている所以が分かった。

残りの3割はコメディカルの人たちと一緒に行動をともにし、精神的、社会的、宗教的アプローチの仕方を学んだ。特に、チャプランと一緒に訪問した経験は貴重であった。患者の死生観、宗教観、死に対する心の準備を垣間見ることができた。人は死を迎えるにあたって宗教ほど力強く支えになるものはないのではないだろうかと感じた。

患者やその家族からは感謝の言葉が働いている人々へ毎日のように寄せられていた。そこで働いている人たちは他の病棟に比べてもなぜか生き生きとしていた気がする。多くのスタッフは自分でホスピスを志願して異動してくるという。人間の死ぬ瞬間に最も多く接する機会のある人たちであるわけだが、自分が医療従事者の1人として、また、同じ人間の1人として、ある人間の人生最後の瞬間に関わり、尊厳ある死を迎えていく中で自分が何かしらの助けになることができるという自負のようなものをみんな持っているのかもしれない。

選択ローテーションとしてのホスピス研修であったが、数あるローテーションのかなでも最も充実した研修のひとつになったことは言うまでもない。現在、米国ではホスピス専門医認定医制度が導入され始め、1年間のホスピス研修をその資格取得の条件としている。平和な時代にあって高齢化社会が進めば、これからますますホスピスの需要が高まっていくであろうことは容易に推測される。日本でももっとホスピスの概念や施設が増えていくことを願ってやまない。